「来月からうちの事業所、閉めることになりまして」——長年頼んできた訪問介護の担当者から、ある日突然そう告げられたらどうしますか。今、この不安は決して大げさではありません。東京商工リサーチの調査によれば、2025年の訪問介護事業者の倒産は91件で3年連続の過去最多を更新しており、小規模な事業所ほど経営体力が乏しく、突然の廃業に至りやすい状況が続いています。

先に、要点をまとめます。

  • 訪問介護事業所が計画的に廃止・休止する場合は「1か月前までの届出」が法律で義務づけられており、原則としてケアマネジャーと連携して他の事業所への引き継ぎが行われます。
  • ただし倒産による事業停止は、この届出ルールが十分に機能しないまま突然サービスが止まる可能性があり、計画的な廃業とはリスクの質が異なります。
  • サービスが急に止まりそうなときは、ケアマネジャー・地域包括支援センター・市区町村の介護保険担当窓口のいずれかにすぐ連絡すれば、他事業所への引き継ぎを支援してもらえます。

ただし一つだけ、後半で必ず触れておきたい注意点があります。「倒産したら利用者は泣き寝入りするしかないのでは」と思われがちですが、実際には家族が自分で動かなくても支援を受けられる仕組みがあります。ただしその仕組みには時間差があり、空白期間をどう乗り切るかが実務上の課題になります。この点は記事の後半で具体的に説明します。

訪問介護の事業所が倒産する事例は本当に増えている?

増えています。東京商工リサーチによれば、2025年の訪問介護事業者の倒産は91件で3年連続の過去最多を更新し、介護事業者全体の倒産176件のうち約52%を占めました。

2021年の47件から2025年の91件へ、4年間でおよそ2倍に膨れ上がっています。増加の主な要因として指摘されているのは、2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに加え、ヘルパー不足による人件費の上昇、ガソリン代など移動コストの増加が資金繰りを圧迫している点です。

倒産した事業者の内訳を見ると、資本金500万円未満が72.7%、従業員10人未満が80.6%を占めており、経営体力の乏しい小・零細事業者に集中していることが分かります。訪問介護は全国に小規模事業所が数多く存在する業態のため、「近所の馴染みの事業所」ほど、実はこうした倒産リスクと無縁ではない構造になっています。

とはいえ、これは「今使っている事業所が危ない」という話では必ずしもありません。事業所の規模だけで安全性を判断するのは難しい一方で、事業所を選ぶ・見極める段階でできる備えもあります。日頃の対応や人員体制を確認するポイントは「訪問介護事業所の選び方と比較のポイント」で解説しています。

事業所が計画的に廃業するときはどんなルールがある?

訪問介護事業所が廃止・休止する場合、原則として廃止予定日の1か月前までに都道府県・市区町村へ届け出る義務があり、利用者へのサービス確保の措置を講じることが求められています。

介護保険法では、指定居宅サービス事業者が事業を廃止・休止するとき、廃止・休止の日の1か月前までに指定権者(都道府県または市区町村)へ届け出ることを義務づけています。これは「今日で終わりです」と一方的にサービスを打ち切ることを防ぐための仕組みです。

届出とあわせて、事業者には利用者が引き続き必要なサービスを受けられるよう、次のような対応が求められます。

  • 現に サービスを利用している人に対して、他の事業者の紹介その他の便宜の提供を行う
  • ケアプランを作成しているケアマネジャーに事前に連絡し、他事業所への引き継ぎに協力する
  • 利用者・家族に対して、廃止・休止の予定と今後の見通しを説明する

計画的な廃業であれば、この1か月という期間の中で、ケアマネジャーが次の事業所を探し、切れ目なく引き継ぐ時間を確保できます。実際、多くの廃業はこの手順に沿って進み、利用者が大きな混乱に見舞われることなくサービスが継続されています。

計画的な廃業では1か月前届出とケアマネジャー経由の引き継ぎで切れ目なく移行できるが、倒産では届出義務が守られず利用者への連絡が遅れがちになる、両者の違いを示した比較図

倒産のときは、この「1か月前届出」は守られる?

倒産は資金繰りの破綻という性質上、計画的な廃業のような余裕を持った届出・引き継ぎが行われないまま、突然サービスが止まってしまうリスクがあります。

計画的な廃業と倒産の最大の違いは「準備期間の有無」です。倒産は経営者の意思だけでコントロールできるものではなく、資金がショートした時点で事業継続が困難になります。結果として、法律上は1か月前届出が原則であっても、実際には次のような事態が起こり得ます。

  • 経営破綻の直前まで事業者側も先行きを見通せず、届出のタイミングが遅れる、あるいは実質的に間に合わない
  • 経営者や職員が急な対応に追われ、利用者一人ひとりへの丁寧な説明や他事業所紹介まで手が回らない
  • 給与未払いなどでヘルパーが先に離職してしまい、届出前からサービス提供自体が滞る

つまり、倒産は「制度上のルールが機能する前に現実が先に動いてしまう」タイプの終わり方です。だからこそ、利用者・家族の側も「事業者からの連絡を待つ」だけでなく、少しでも様子がおかしいと感じたら自分から動く姿勢が重要になります。

事業所の様子がおかしいと感じたら、何を確認すればいい?

訪問予定の急な変更・キャンセルが続く、請求書の発行が遅れる、職員の退職が相次ぐといった変化は、経営悪化のサインである可能性があります。

日常的にサービスを受けている家族だからこそ気づける変化があります。以下のような兆候が重なって見られる場合は、早めにケアマネジャーへ相談しておくと安心です。

気づきやすいサイン考えられる背景
担当ヘルパーが短期間で何度も交代する職員の離職が続いている可能性
訪問時間の変更や当日キャンセルが増える人員不足でシフトが組めていない可能性
利用料金の請求・領収書の発行が遅れがちになる事務体制や資金繰りが圧迫されている可能性
事業所への電話がつながりにくくなる経営体制の縮小が進んでいる可能性

これらのサインが一つあるだけで倒産が確定するわけではありませんが、複数が同時期に重なる場合は注意が必要です。「最近ちょっと様子が変だな」と感じた段階で、担当のケアマネジャーに一言伝えておくだけでも、いざというときの動きが速くなります。ヘルパーとの相性の問題で事業所変更を検討する場合の進め方は「ヘルパーが合わない、事業所を変えたい|円満に進める相談と手続きの流れ」で扱っていますが、今回のテーマである倒産・廃業は利用者側の意思とは関係なく起きる点で性質が異なります。

実際にサービスが止まりそうなとき、まず誰に連絡すればいい?

担当のケアマネジャーへの連絡が最優先です。連絡がつかない場合は、地域包括支援センターまたは市区町村の介護保険担当窓口に相談すれば、他事業所への引き継ぎを支援してもらえます。

「明日からヘルパーさんが来なくなるかもしれない」という状況になったとき、家族が取るべき行動の優先順位は次のとおりです。

  1. 担当ケアマネジャーに連絡する。ケアマネジャーは複数の訪問介護事業所と日常的にやり取りしており、代わりの事業所を探すノウハウと人脈を持っています。まずはケアプラン作成者であるケアマネジャーが最初の窓口です。
  2. ケアマネジャー自身も対応に追われている、または連絡がつかない場合は、地域包括支援センターに連絡する。地域包括支援センターは、地域の介護事業所の状況を横断的に把握しており、緊急時の代替事業所の紹介や、ケアマネジャーの変更相談にも対応しています。
  3. 並行して、市区町村の介護保険担当窓口にも状況を伝えておく。指定権者である市区町村は、管内の事業者が廃止・休止する際に届出を受理する立場であり、倒産の情報を早期に把握していることもあります。利用者側から連絡することで、行政側の対応も早まる場合があります。

介護保険制度上、指定居宅サービス事業者の指定・監督権限は市区町村(または都道府県)にあり、事業者の廃止・休止の届出を受理する立場でもあります。倒産で計画的な届出手続きが機能しなかった場合でも、指定権者である市区町村やケアマネジャーが中心となって他事業所への引き継ぎを調整する運用が基本です。ただしこの仕組みが動き出すには、家族側からの連絡が最初のきっかけになる場面が多い、という点を押さえておくことが実務上のポイントです。

次の事業所が見つかるまでの空白期間はどう乗り切る?

次の事業所への切り替えには数日〜数週間かかることがあるため、その間は家族での対応、または一時的な代替サービス(ショートステイ等)の利用を並行して検討します。

ケアマネジャーが動き出しても、新しい事業所との契約・重要事項説明・初回訪問のスケジュール調整には、どうしても一定の日数がかかります。この空白期間への備えとして、現実的に検討されるのは次のような選択肢です。

  • 家族が交代で対応できる時間帯を洗い出す。生活援助(調理・掃除・洗濯)は一時的に家族で分担し、身体介護(入浴・排泄介助)を優先して次の事業所を探すという優先順位のつけ方もあります。
  • 短期入所生活介護(ショートステイ)を数日〜1週間程度利用し、その間に次の事業所を確定させる。とくに独居で見守りが必要な場合は、空白期間の安全確保として現実的な選択肢です。
  • 地域の別サービス(デイサービス等)を一時的に増やし、在宅時間の介助量を減らす。訪問介護以外のサービスとの組み合わせ方は「訪問看護・デイ・福祉用具との併用」も参考になります。

空白期間をどう埋めるかは家庭の状況によって最適解が変わるため、この段階でもケアマネジャーへの相談が欠かせません。「次が決まるまで我慢する」のではなく、「次が決まるまでの間、何を代替するか」を早い段階で一緒に組み立てることが、家族の負担を最小限にするコツです。

実際にどんな乗り換えの進み方になる?

比較的よく相談を受けるのは、次のような場面です。

  • 利用者が独居で、認知機能に不安があるケース。倒産の連絡そのものを本人が正しく理解できず対応が遅れがちなため、離れて暮らす家族が代わりにケアマネジャーと連絡を取り合い、次の事業所探しを主導する形になりやすいパターンです。地域包括支援センターが本人の状況確認を兼ねて間に入ることも少なくありません。
  • 医療的ケア(喀痰吸引・経管栄養等)に対応していた事業所が倒産したケース。次の事業所も同じ医療的ケアに対応できるとは限らないため、対応可能な事業所を優先的に絞り込む必要があり、通常の乗り換えより探索に時間がかかります。対応できる医療的ケアの範囲は事業所ごとに異なるため、訪問介護で受けられる医療的ケアもあわせて確認しておくと選定がスムーズです。
  • 複数の家族が同じ事業所を使っていたケース(きょうだいで親を担当している、夫婦それぞれが訪問介護を利用している等)。1つの事業所の倒産で複数人分の調整が同時に必要になり、ケアマネジャーへの相談も1件にまとめず、それぞれの状況を個別に伝えたほうが引き継ぎがスムーズに進むことがあります。

いずれのケースでも共通しているのは、「様子がおかしい」と感じた時点で、確定情報を待たずにケアマネジャーへ一報を入れていることです。連絡が早いほど、ケアマネジャー側も複数の候補事業所への打診を並行して進められ、空白期間を短くできます。

事業所選びで失敗しないために、乗り換え時に確認しておきたいことは?

急な乗り換えほど「今回と同じ失敗」を避けるため、契約前に人員体制・緊急連絡体制・請求の仕組みの3点を確認しておくことが有効です。

倒産による乗り換えは時間的な余裕がなく、つい「とにかく空いている事業所」で決めてしまいがちです。ただし、次のような点を最低限確認しておくと、再び同じような不安を抱える事態を避けやすくなります。

  • 人員体制に余裕があるか: 職員数がぎりぎりの事業所は、退職者が出た際にサービス提供が不安定になりやすい傾向があります。確認の視点は「訪問介護事業所の人員体制の確認ポイント」で解説しています。
  • 緊急連絡体制が明確か: 夜間・休日の連絡先や、担当者不在時の代替連絡先が重要事項説明書に明記されているかを確認します。詳しくは「緊急連絡体制で見る訪問介護事業所の選び方」を参考にしてください。
  • 請求・領収書の発行が定期的か: 前述のとおり、請求の遅れは経営状態の変化に気づく手がかりの一つです。契約後も、毎月の請求書が滞りなく届いているかを気に留めておくとよいでしょう。

「早く決めなければ」という焦りの中でも、これら3点だけは契約前に確認しておくことで、次に同じ不安を抱えるリスクを下げられます。事業所全体の比較の視点は「訪問介護事業所の選び方と比較のポイント」にまとめていますので、時間が許す範囲であわせて確認してみてください。

この記事で持ち帰れること

ここまでの内容から、次の3点を判断材料として持ち帰っていただけます。

  • 訪問介護事業者の倒産は年々増加しており、計画的な廃業と違って届出・引き継ぎのルールが十分に機能しないまま突然サービスが止まるリスクがあること
  • サービス停止の兆候(ヘルパーの頻繁な交代、当日キャンセルの増加、請求の遅れ等)に気づいたら、確定を待たずにケアマネジャーへ相談してよいこと
  • 実際に止まりそうなときは、ケアマネジャー→地域包括支援センター→市区町村の順に連絡すれば、他事業所への引き継ぎを支援してもらえる仕組みがあること

まずは今日、これだけ確認してみませんか

「うちの事業所は大丈夫だろうか」と急に不安になる必要はありませんが、今日、担当のケアマネジャーの連絡先が今すぐ分かる場所にあるかどうかだけ、一度確認してみてください。契約時に渡された重要事項説明書やケアプランの控えに記載されていることがほとんどです。連絡先がすぐ分かるようにしておくだけで、いざというときの初動が大きく変わります。

事業所を見直すきっかけになった方は、介護ほうもんさーちの検索ページから、お住まいの地域で他の訪問介護事業所を条件を絞り込んで比較できます。