親の様子が急に変わり、「このままでは仕事を続けられないかもしれない」と感じ始めた——。働きながら親の介護に向き合うご家族から、そうした声をよく聞きます。会議の合間に実家へ電話をかけ、週末はまとめて帰省し、有給休暇が介護のために消えていく。その状態が数か月続くと、「いっそ辞めたほうが親のためではないか」という考えがよぎります。

先に、要点をまとめます。

  • 介護離職は、多くの場合「介護そのものの重さ」ではなく「制度を知らないまま自力で抱え込んだ結果」として起こります。訪問介護と勤務先の両立支援制度は、それぞれ別の穴を埋める道具です。
  • 訪問介護に頼るべきなのは「平日日中の、家族が物理的に行けない時間帯」です。ここを埋められるかどうかが、仕事を続けられるかどうかの分かれ目になります。
  • 介護休業(対象家族1人につき通算93日・3回まで分割)は「自分が介護をするための休み」ではなく「介護の体制をつくるための休み」として使うのが定石です。

ただし、この組み立てには一つ落とし穴があります。訪問介護は「頼めば来てくれるサービス」ではなく、事業所側の人員体制によって「頼めない時間帯」があるという点です。ここを見落とすと、せっかく制度を整えても肝心の時間帯が埋まりません。この点は記事の後半で、事業所への具体的な確認方法とあわせて説明します。

なぜ介護離職は起きてしまうのか?

介護離職の多くは、介護が重くなったから起きるのではなく、「仕事と介護の時間がぶつかる場面」を制度で埋められないまま、個人の頑張りで吸収し続けた結果として起きます。

経済産業省は、家族の介護をしながら働く人(ビジネスケアラー)が2030年には約318万人に達し、家族介護者のおよそ4割を占めると推計しています(経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」2024年3月公表)。介護離職はすでに社会全体の課題として認識されており、「自分の家庭だけが特別に大変なわけではない」という前提から出発して構いません。

働きながらの介護がつらくなるのは、たいてい次のような構造になっているときです。

  • 平日日中に対応が必要な用件が繰り返し発生する(通院の付き添い、ケアマネジャーとの打ち合わせ、行政の手続き、緊急の呼び出し)
  • 夜間や早朝の対応が積み重なる(服薬確認、転倒の心配、頻回な電話)
  • 相談先が家族の中に閉じている(配偶者やきょうだいと分担の話し合いができていない)
  • 勤務先に介護のことを伝えていない(配慮を求められる制度があっても発動しない)

このうち、訪問介護が直接埋められるのは1つ目と2つ目の一部です。3つ目・4つ目は制度と対話の問題で、訪問介護だけでは解決しません。逆に言えば、この4つを分けて考えることが両立の第一歩です。「介護がつらい」を一塊で捉えている限り、どの手を打てばいいかが見えません。

ご自身の状況を振り返ってみて、いま一番負担が大きいのがどれに当たるかを一つだけ選んでみてください。そこが最初に手をつけるべき場所になります。

訪問介護はどの時間帯を埋めるべき?

優先して埋めるべきは「平日の日中、家族が物理的にその場に行けない時間帯」です。家族が対応できる夜間や週末から埋め始めると、肝心の平日が空いたままになり、結局仕事に穴があきます。

訪問介護には大きく分けて、入浴・排泄・食事などを手伝う「身体介護」と、掃除・洗濯・調理・買い物代行などを担う「生活援助」があります。詳しくは訪問介護とは?できること・できないこと一覧にまとめていますが、働きながら介護をする家庭で効いてくるのは、この2つを「家族が行けない時間」にどう配置するかという設計です。

たとえば、離れて暮らす親が一人で生活している場合、次のような組み立てが考えられます。

時間帯起こりがちな困りごと訪問介護で埋められること
平日の朝起床・着替え・朝食の準備が滞る身体介護(起床・整容の介助)、生活援助(調理)
平日の日中昼食を抜いてしまう、掃除ができない生活援助(調理・掃除・買い物代行)
平日の夕方夕食の準備が難しい、入浴ができない身体介護(入浴介助)、生活援助(調理)
夜間・早朝転倒・体調変化の不安定期巡回・随時対応型や夜間対応型など、別のサービス類型を検討
週末家族が帰省して対応することが多い家族が担う前提なら、訪問の回数を抑えて限度額を平日に回す

ポイントは、週末に家族が行けるなら、そこは無理に訪問介護で埋めないという判断です。介護保険には要介護度ごとに月あたりの利用上限(区分支給限度基準額)があり、たとえば要介護1は16,765単位、要介護3は27,048単位と定められています(1単位あたりの金額はサービスの種類や地域により異なります)。限られた枠をどこに配分するかという発想が要ります。仕組みの詳細は区分支給限度額と訪問介護の使える範囲で解説しています。

夜間の不安が大きい場合は、通常の訪問介護ではなく「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や「夜間対応型訪問介護」といった別の類型が選択肢になります。これらは1日複数回の短時間訪問や、夜間の随時対応を前提に設計されたサービスです。地域によって提供している事業所の有無が分かれるため、ケアマネジャーに「この地域で使えるか」を確認するところから始めるとよいでしょう。

働き方から逆算して訪問の配置を考える流れを、図にまとめました。

仕事の勤務時間帯を書き出し、家族が対応できる時間と対応できない時間を切り分け、対応できない平日日中に訪問介護を配置し、夜間は別サービスを検討する4ステップの流れを示した図

勤務先の制度は何が使える?

育児・介護休業法により、介護休業(対象家族1人につき通算93日・3回まで分割)、介護休暇(年5日、対象家族が2人以上なら年10日)、所定外労働の免除などが定められています。要介護認定の有無にかかわらず、法律上の「要介護状態」に該当すれば申し出ることができます。

ここで多くの方が誤解しているのが、介護休業の使い方です。93日という日数を「自分が親を介護する期間」として使い切ってしまうと、休業が明けた時点で何も変わっておらず、結局辞めることになりがちです。

介護休業は「介護の体制をつくるための時間」として使うのが定石です。 具体的には次のような使い方です。

  1. 要介護認定の申請と認定調査に立ち会う。申請から認定までおおむね1か月前後かかり、この間の平日対応が必要になります
  2. ケアマネジャーを決め、ケアプランを一緒に組む。働き方の実情(何時から何時まで対応できないか)を伝える場です
  3. 訪問介護事業所を比較し、契約する。重要事項説明書の確認や初回のサービス担当者会議は平日日中に行われることが多いです
  4. 数週間サービスを回して、抜けている時間帯を洗い出す。ここで調整しておくと、復職後の急な呼び出しが減ります

介護休業は3回まで分割して取得できるため、「体制づくりで数週間」「状態が変わったときにもう一度」というように、必要なタイミングで小分けに使うことができます。1回で使い切らないことが、長く働き続けるうえで効いてきます。

介護休暇(年5日、対象家族が2人以上なら年10日)は、通院の付き添いやケアマネジャーとの短時間の打ち合わせなど、半日〜1日単位の用事に向いています。時間単位での取得も可能とされているため、「午前中だけ抜けて認定調査に立ち会う」といった使い方ができます。

加えて、2025年4月に施行された改正育児・介護休業法により、事業主には介護に直面した従業員から申し出があった際に、介護休業などの制度を個別に周知し、利用の意向を確認する措置が義務づけられました。また、40歳に達した年度などの節目に、介護と仕事の両立に関する制度の情報提供を行うことも義務とされています(育児・介護休業法第21条)。あわせて、介護休業の申出が円滑に行われるようにするための研修実施や相談体制の整備なども事業主の義務です(同法第22条)。

つまり、勤務先に「親の介護が始まりました」と伝えることは、単なる相談ではなく、会社側に対応の義務が生じるきっかけになります。言い出しづらさはあると思いますが、伝えなければ制度は動きません。人事や労務の担当者に一言伝えるところから始めてみてください。

なお、介護休業を取得した期間については、一定の要件を満たすと雇用保険から介護休業給付金が支給される仕組みがあります。支給要件や金額は個別の状況によって異なるため、ハローワークまたは勤務先の担当部署に確認するのが確実です。

遠距離介護でも訪問介護は使える?

使えます。訪問介護の契約者は原則として利用者本人ですが、家族が離れて暮らしている場合でも、家族が契約手続きや連絡調整に関わる形で利用を始められます。

遠距離で介護をする場合、鍵になるのは「情報が家族に届く仕組み」です。同居していれば自然に分かる体調の変化や部屋の様子が、離れているとまったく見えなくなります。訪問介護事業所は訪問のたびに記録(サービス提供記録)を残しており、この記録をどう共有してもらうかを契約時に決めておくと、遠距離でも状況を把握しやすくなります。

確認しておきたいのは次のような点です。

  • 記録の共有方法と頻度。自宅に置かれる連絡ノートだけでは離れて暮らす家族には届きません。メールや電話での定期報告に対応しているか
  • 急変時の連絡順序。家族・ケアマネジャー・救急のどこに、どの順番で連絡が入る運用になっているか
  • 家族が帰省したときの面談の可否。土日や平日夜にサービス提供責任者と話す機会をつくれるか
  • キャンセルや予定変更の連絡窓口。急な帰省で訪問が不要になったとき、誰にいつまでに伝えればよいか

一人暮らしの親を支える場合の始め方については、一人暮らしの親に訪問介護、何から始める?でも詳しく取り上げています。あわせて、離れて暮らす家族ならではの関わり方は遠方に住む家族が訪問介護とどう関わるかにまとめています。

事業所に何を確認すればいい?

ここで、冒頭で触れた落とし穴に戻ります。訪問介護は「頼めば必ずその時間に来てくれる」サービスではなく、事業所ごとにヘルパーの人員配置があり、埋められない時間帯が存在します。

働きながらの介護で本当に困るのは、「平日の朝8時台に来てほしいのに、その時間はどの事業所も埋まっている」といった事態です。制度を整え、ケアプランを組んでも、実際に引き受けてくれる事業所がなければ絵に描いた餅になります。だからこそ、事業所を比較する段階で次の項目を具体的に聞いておくことが重要です。

確認項目なぜ確認するか
対応可能な時間帯(早朝・夜間の可否)仕事の勤務時間と重なる時間帯を埋められるかが最重要
平日朝・夕方の空き状況需要が集中する時間帯。実際に受けられるかは事業所の人員次第
実施地域に実家が入っているか地域外だと交通費が実費になる、または対応自体ができない場合がある
家族への連絡手段(電話・メール等)遠距離の場合、報告が届く手段があるかで安心感が変わる
担当ヘルパーの継続性頻繁に担当が変わると、本人への説明負担が家族に戻ってくる
サービス提供責任者との相談のしやすさ働き方が変わったときにプランを調整できる関係かどうか

実施地域が実家をカバーしているかの確認方法をはじめ、事業所比較の全体的なポイントは訪問介護事業所の選び方と比較のポイントで解説しています。

事業所ごとの実施地域や対応サービスは、介護ほうもんさーちの検索から、実家の住所や希望する条件で絞り込んで比較できます。候補を2〜3か所に絞ってから、上の表の項目を電話やメールで聞いていくと、比較がしやすくなります。

つまずきやすいのはどんなところ?

よくあるのは「制度を整えたのに時間帯が埋まらない」「家族の中で分担が決まらない」「勤務先への相談が遅れる」の3つです。いずれも早い段階で気づけば修正できます。

  • 失敗例1: 週末から埋めてしまう。家族が帰省できる週末に訪問を厚く入れてしまい、平日の日中が手薄なままだったケース。区分支給限度額の枠は有限なので、家族が対応できる時間は家族が担い、対応できない時間に配分するのが基本です。
  • 失敗例2: 介護休業を「自分で介護する期間」として使い切る。93日を丸ごと介護に充て、復帰したときに体制が何も変わっていなかったケース。分割取得を前提に、体制づくりの期間として使うほうが長続きします。
  • 失敗例3: きょうだい間の分担を後回しにする。「言い出しにくいから自分が動く」を続けた結果、特定の一人に負担が集中したケース。ケアマネジャーとの面談にきょうだいも同席してもらうと、第三者がいる場のほうが分担の話がしやすくなります。
  • 失敗例4: 勤務先に伝えるのが遅れる。有給休暇を使い切ってから相談したため、選べる選択肢が減っていたケース。制度は申し出があって初めて動くので、早めの一言が効きます。
  • 失敗例5: 訪問介護だけで完結させようとする。日中の見守りや家族の休息が必要な場合、デイサービスやショートステイとの併用が現実的です。他サービスとの組み合わせは訪問看護・デイ・福祉用具との併用を参考にしてください。

働きながらの介護は、数か月から数年という単位で続きます。最初の設計を「持続できるか」という視点で見直しておくと、途中で息切れしにくくなります。

この記事で持ち帰れること

ここまでの内容から、次の3点を判断材料として持ち帰っていただけます。

  • いま自分の負担が「訪問介護で埋められる時間の問題」なのか、「勤務先の制度で解決する問題」なのか、「家族の分担の問題」なのかを切り分けられること
  • 介護休業93日を「自分が介護する期間」ではなく「体制をつくる期間」として、分割で設計できること
  • 事業所を選ぶ段階で、平日日中・早朝・夕方の空き状況という、働く家族にとって決定的な項目を確認できること

まずは今日、これだけやってみませんか

大きな決断をする前に、まずは手元の紙かスマートフォンのメモに、今月の自分の勤務時間帯と、実家に行けた日・行けなかった日を書き出してみてください。 5分ほどで済みます。それだけで「どの曜日のどの時間帯が構造的に空いているか」が見えてきて、ケアマネジャーに相談するときの伝え方が具体的になります。「なんとなく大変」が「火・木の朝が空いている」に変わるだけで、打てる手はぐっと増えます。

そのうえで実家の周辺にどんな事業所があるかを知りたい場合は、介護ほうもんさーちの検索ページから住所や対応時間の条件で絞り込んで探すことができます。掲載事業所への問い合わせや、サイトについてのご相談はお問い合わせからお受けしています。

仕事を続けることは、決して親をないがしろにすることではありません。収入と社会とのつながりを保っておくことが、結果として介護を長く続けられる土台になります。焦らず、使える制度と人の手を一つずつ足していってください。