「エアコンはもったいないから」と言って、真夏でも扇風機だけで過ごそうとする。電話で「暑くない?」と聞いても「大丈夫」と返ってくる——。離れて暮らす親や、日中ひとりで過ごす家族の夏に、そんな不安を感じている方は多いのではないでしょうか。

先に、要点をまとめます。

  • 熱中症による救急搬送は、発生場所別では住居が約38%と最も多く、搬送された人の57.1%を65歳以上の高齢者が占めます(2025年・消防庁確定値)。熱中症対策の主戦場は、炎天下の屋外ではなく「自宅の中」です。
  • 高齢者は加齢によって暑さやのどの渇きを感じにくくなるため、「本人が大丈夫と言っているから大丈夫」という判断は通用しません。周囲からの声かけと、数字で見える環境づくりが前提になります。
  • 訪問介護の訪問には、水分補給の声かけや室温の確認といった熱中症対策を組み込めます。ただし訪問介護は決まった時間に来る「点」のサービスなので、訪問のない時間帯をどう埋めるかまで含めた設計が必要です。

ただし一つ、後半で必ず触れておきたい注意点があります。訪問介護をすでに組み込んでいる家庭でも熱中症のリスクが残るのは、多くの場合「訪問と訪問の間の時間帯」です。ここをどう埋めるかは、記事の後半で具体的に説明します。

高齢者の熱中症は、なぜ自宅で起きやすい?

熱中症の救急搬送は住居での発生が約38%と最も多く、搬送者の57.1%が65歳以上です。加齢で暑さやのどの渇きを感じにくくなることが、自宅での発症につながっています。

総務省消防庁の確定値によると、2025年(令和7年)5月から9月までの全国の熱中症による救急搬送人員は100,510人と、調査を開始した2008年以降で最多となりました。年齢区分別では65歳以上の高齢者が57,433人(57.1%)と最も多く、発生場所別では住居が約38%で最多、次いで道路が約20%です。入院が必要な中等症以上の方が約36%を占め、死亡は117人にのぼります(総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」2025年10月29日公表)。

「炎天下で運動や作業をして倒れる」というイメージとは裏腹に、高齢者の熱中症は、閉め切った部屋の中でじわじわと進行するケースが目立ちます。背景には、加齢に伴う体の変化があります。環境省の熱中症予防情報でも、高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくくなること、体内の水分量がもともと少ないこと、体温を下げる機能が低下することが指摘されており、「気づいたときには脱水が進んでいた」という事態が起こりやすいのです。

しかも2025年は熱中症警戒アラートの発表回数が過去最多を記録し、この夏(2026年)も7月中旬から猛暑日が急増、8月も厳しい暑さが続く見込みと予報されています(日本気象協会)。「今年さえ乗り切れば終わり」ではなく、猛暑を前提にした見守りの仕組みを作っておくことが、来年以降の夏にも効いてきます。

離れて暮らす親が電話口で「暑くない」と言うとき、それは我慢しているのではなく、本当に暑さを感じていない可能性があります。ご家族の状況に当てはめるなら、「本人の感覚に任せない」——まずこの前提に立つことが、夏の見守りの出発点になります。

エアコンを使いたがらない親には、どう声をかければいい?

「もったいない」「体に悪い」という本人の考えを正面から否定せず、電気代の目安を一緒に確認したり、かかりつけ医など本人が受け入れやすい相手から伝えてもらったりと、伝え方を変えることが近道です。

高齢の親がエアコンを使いたがらない理由は、大きく分けると「電気代がもったいない」「冷房は体に悪いと思っている」「操作がよく分からない・面倒」の3つに集約されます。それぞれ、次のような働きかけが考えられます。

  • 電気代への不安が強い場合: 「命には代えられない」という正論よりも、具体的な電気代の目安を一緒に確認するほうが受け入れられやすいことがあります。また、自治体によっては高齢者世帯向けにエアコンの購入・設置費用の助成を行っている場合があるため、お住まいの市区町村の窓口で確認してみる価値があります。
  • 「冷房は体に悪い」と思っている場合: 設定温度を下げすぎない、風が直接当たらない向きにする、除湿(ドライ)から試すなど、本人の不快感を減らす調整から入ると受け入れられやすくなります。環境省も、暑い日は昼夜を問わずエアコンを適切に使うよう呼びかけています。かかりつけ医や看護師など、本人が信頼している相手から伝えてもらうのも有効です。
  • 操作が難しくなっている場合: リモコンの操作が複雑で使えていない、というケースは意外に多くあります。よく使うボタンだけ分かるように印を付ける、家族が遠隔で操作できる機器を設置するといった方法のほか、後述するように訪問介護のヘルパーに室温確認とあわせて調整をお願いする方法もあります。

あわせて、室温を「感覚」ではなく「数字」で見えるようにすることも効果的です。本人は暑さを感じにくくても、温湿度計が見える場所にあれば「この数字を超えたらエアコンをつける」という客観的なルールを親子で作れます。ご実家の居間と寝室に温湿度計があるか、思い浮かべてみてください。なければ、それが最初の一歩になります。

訪問介護の訪問に、熱中症対策はどこまで組み込める?

水分補給の声かけ、調理・買い物での飲み物の準備、入浴時の体調確認、室温の確認やエアコンの調整といった対策を、身体介護・生活援助の訪問の中に組み込めます。

訪問介護は「見守りだけ」を単独の目的として依頼することは制度上できませんが、掃除や調理などの生活援助、入浴介助などの身体介護の訪問の中で、次のような熱中症対策を組み込むことができます。

  • 水分補給の声かけと確認: 訪問のたびに水分を勧め、飲んだ量やペットボトルの減り具合を確認する
  • 調理・買い物での備え: 飲み物を切らさないよう買い物で補充し、食事から水分と塩分を取りやすい献立を整える
  • 室温・環境の確認: 訪問時に室温を確認し、必要に応じてエアコンや扇風機の調整、カーテンの開け閉めを行う
  • 体調変化の観察: 顔色・汗のかき方・食欲・会話の様子を見る。入浴介助や清拭は、肌の状態や体調の変化に気づきやすい機会でもあります
  • 家族への共有: 気になる変化があれば、サービス提供責任者を通じてご家族やケアマネジャーに連絡する

こうした内容は、ケアプランやサービス内容の打ち合わせの際に「夏場は水分と室温の確認をお願いしたい」と具体的に伝えておくことで、訪問の記録(サービス提供記録)にも残る形で組み込みやすくなります。夏の間だけ訪問回数や時間帯を調整したい場合も、区分支給限度額の範囲内で組み替えられないか、ケアマネジャーに相談できます。

なお、浴室での入浴が体力的に難しくなっている場合は、シャワー浴や清拭への切り替えのほか、浴槽ごと自宅に持ち込む訪問入浴介護という選択肢もあります。汗をかく季節は清潔の保持が体調管理に直結するため、無理のない方法をヘルパーやケアマネジャーと相談してみてください。

訪問がない時間帯の熱中症リスクは、どう埋める?

ここで、冒頭で触れた注意点に戻ります。訪問介護は決まった時間に訪問する「点」のサービスのため、訪問のない時間帯——特に日中の最も暑い時間帯と夜間——を、家族の電話・デイサービス・自治体の制度などで埋める設計が欠かせません。

熱中症は、数時間のうちに進行することがあります。朝の訪問では元気だったのに、閉め切った部屋で午後を過ごすうちに具合が悪くなる——訪問介護を使っていても防ぎきれないケースの多くは、この「訪問と訪問の間」で起きています。だからこそ、次のような組み合わせを検討する価値があります。

猛暑日の1日を朝・日中・夕方・夜間に分け、訪問介護の訪問で水分・室温・体調を確認し、訪問のない時間帯を家族の定時電話やデイサービス、クーリングシェルターなどで埋める組み合わせの例と、訪問に組み込める熱中症対策を示した図

  • 家族の「定時電話」をルール化する: 「熱中症警戒アラートが出た日は昼に電話する」のように、かける条件を決めておくと続けやすくなります。アラートの発表状況は、テレビの気象情報のほか、環境省の熱中症予防情報サイトで確認できます。
  • デイサービスの併用: 日中の最も暑い時間帯を、空調の整った場所で過ごせること自体が熱中症対策になります。組み合わせ方はデイサービスと訪問介護を併用する考え方で解説しています。
  • クーリングシェルターの確認: 2024年から、市区町村が図書館や公民館などを「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」として指定する制度が始まっています。開放される場所や時間は自治体によって異なるため、実家のある市区町村のサイトで一度確認しておくと、買い物や散歩のついでに涼める場所の目星がつきます。
  • 夜間の備え: 熱帯夜には就寝中に熱中症が進むリスクもあります。寝室のエアコンをタイマーで切らず朝までつけておく設定を本人と決めておくほか、夜間の体調急変が心配な場合の考え方は夜間の不安があるときの訪問介護の考え方にまとめています。
  • 独居の場合の見守りの土台: 緊急通報装置や民生委員の見守りなど、一人暮らしの高齢者を支える体制づくりの全体像は一人暮らしの親に訪問介護、何から始める?で取り上げています。

すべてを一度にそろえる必要はありません。ご家族の場合に当てはめるなら、「平日の日中」「週末」「夜間」のうち、いま誰の目も届いていない時間帯はどこかを書き出してみると、優先順位が見えてきます。平日日中に対応できない働くご家族の時間設計は、仕事と介護の両立|辞めずに続けるための訪問介護の組み立て方も参考になります。

事業所やケアマネジャーに、夏の間どんな相談ができる?

夏場の訪問時間帯の調整、水分・室温確認の依頼と記録の共有方法、体調変化時の連絡順序の3点は、多くの事業所で相談できる現実的なテーマです。

夏に向けて事業所やケアマネジャーと打ち合わせる際は、次の項目を具体的に確認しておくと安心です。

確認項目確認する理由
訪問時間帯の季節調整最も暑い時間帯に訪問を寄せられるか、夏の間だけの調整が可能か
水分・室温確認の依頼訪問内容として明示的に組み込めるか、サービス提供記録に残るか
記録の共有方法離れて暮らす家族に、電話やメールなどで様子を共有してもらえるか
体調変化時の連絡順序ぐったりしている・反応がおかしいといった際、家族・ケアマネジャー・救急のどこへどの順で連絡する運用か
入浴・清拭の対応暑い時期の入浴の負担を踏まえ、シャワー浴や清拭への切り替えに柔軟に対応できるか

事業所ごとの対応時間帯や実施地域は、介護ほうもんさーちの検索から条件を絞り込んで比較できます。事業所選び全体の考え方は、訪問介護事業所の選び方と比較のポイントもあわせてご覧ください。

この記事で持ち帰れること

ここまでの内容から、次の3点を判断材料として持ち帰っていただけます。

  • 高齢者の熱中症は自宅での発生が最も多く、「本人が暑くないと言っているから大丈夫」という判断はできないこと
  • 訪問介護の訪問には水分・室温・体調の確認を組み込めるが、それだけでは「訪問と訪問の間」が空白になるため、家族の電話・デイサービス併用・自治体の制度と組み合わせて設計する必要があること
  • 夏場の訪問時間帯の調整や記録の共有は、事業所・ケアマネジャーに相談できる現実的なテーマであること

まずは今日、これだけ確認してみませんか

大がかりな準備は要りません。まずは今日の電話で、「寝るときエアコンつけてる?」「部屋に温度計ある?」の2つだけ聞いてみてください。その答えで、実家の夏の備えがどこまでできているかが、かなり具体的に見えてきます。温湿度計がなければ、次に会うときに1つ持っていく——それだけでも「感覚任せの夏」から一歩抜け出せます。

そのうえで、訪問介護を新しく検討したい場合や、いまの訪問内容を見直したい場合は、介護ほうもんさーちの検索ページから、対応時間帯や実施地域を絞り込んで事業所を比較できます。掲載事業所への問い合わせや、サイトについてのご相談はお問い合わせからお受けしています。暑さのピークはまだ続きます。焦らず、今日できる小さな確認から始めていただければと思います。